オカリンのバースデー01

(どこだ、ここは・・・ 身体が重くて息苦しい・・・)
漆黒の闇の中で上も下も分からぬ中で、妙な息苦しさが強くなっていく。
(これはまさか、機関の攻撃なのか?! ぐっ、俺の右腕が反応しないとは、機関め、どんな手を!)
何も出来ないまま、徐々に押し潰される感覚に戦慄が走る。
(くそぉ! この鳳凰院 凶真もここまでなのか? せめて最後に、アイツに・・・ 紅莉栖に!)
闇の中で、一人の女性を強く想いながら腕を懸命に伸ばした先に、一筋の光が見えた。
(紅莉栖! そこに居るのか紅莉栖ぅぅぅ!!)

光はドンドン大きくなり、視界が眩い光に包まれた、そして戻りつつ視界に何かが映る。
天井?、それは見慣れたラボのでは無いが見覚えのある天井、少しずつ意識が覚醒していく。
「ここは紅莉栖の・・・ さっきのは・・・夢・・・なのか?」
ふぅ・・と一息付きながら、寝惚けた頭を活性化させていく
「まぁ、考えてみれば、この俺がそう易々と機関の術中にはハマる訳無いではないか クックックッ・・・
にしても、あれば夢だったとは言え、この実際に感じる息苦しさは一体なんなのだ・・・」
頭を巡らせると息苦しさの原因が目に入る
「・・・なるほど、原因はコイツかw」
すぐ隣で寝ていた筈の紅莉栖が、俺の胸に覆いかぶさる様にして寝ていたのだ。

「助手の分際で、この鳳凰院凶真にあんな悪夢を見せときながら、自分は気持ち良さそうに寝入っているとはな」
言葉だけの悪態をつきながら、子供の様な無防備な寝顔を見せる紅莉栖の頬に手をやり、かるく撫でてやる
「んん・・・、倫太郎・・・まだダメぇ・・・」くすぐったそうに、そう呟きながら、また静かな寝息を立てて夢の中へ戻った
「くっくっくっ・・・ まったく、どんな夢を見ているのやらw と言うか、夢の中では名前で呼べてるのかw」 
零れそうになる笑みを噛み殺しながら、再度天井へ目をやる
「そうか、昨日、あの後一緒に紅莉栖のホテルへ戻ったんだったか・・・」


昨日の12月14日、ラボでは岡部 倫太郎の誕生日パーティーが開かれ、その中で岡部からラボメン達に
驚愕の重大発表がされる筈だった。
誕生日パーティーは大いに盛り上がり、用意された料理もあらかた平らげ(紅莉栖も張り切って料理を用意し
それを食べさせられた俺は、発表を前に意識をなくす所だった・・・ まさかあれも機関の差し金か?)
みんなでケーキをやっつけている時に、意を決して、やおら立ち上がる
「我が誕生祭に集まったラボメン達よ、今宵は諸君へ報告すべき重要な、もう1つの懸案がある」
そう宣言し、ラボメン達の注目を浴びる、ここまではいつものパターンなのだが、今日この事に関しては別だ
今、この瞬間も心拍数が跳ね上がり、頭から湯気でも吹き出しそうな程、顔が熱い
それを誤魔化すかの様に、いつも以上に大振りなポーズを決め、言い放った!
「それは、この俺、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院 凶真と、その助手クリスティーナは運命石との契約により
 行動を共にする仲になっていた事を、今ここに、ラボメンの諸君へ報告する!!」

(言った・・・ 言ってしまった・・・) さっきまでの盛り上がりから一転、ラボメン達はポカーンとした表情をこちらへ向けている
(さもあらん・・・、この俺と助手が付き合うだなんて、誰も想像すらしていなかっただろうからな、驚いて声も出んだろう。
 それよりどぅ~だ~? クリスティ~ナよ、約束通り、見事に報告して見せたのではないか?)
さぁ、俺を崇めるがいいと言わんばかりに、隣へ視線を移すと、当の紅莉栖は頭を両手で抱えうずくまっていた
「あ゛~・・・なんで、こんなヤツと・・・ 本当に良いのか 私・・・。 考え直すならって、もう遅いのかぁぁぁ んもおぉぉぉぉ
 やっと約束を果たしてくれると思ったのに・・・ 」
なんて事を呟きながら、ブンブンと頭を振っているではないか
「こらこらこらぁ~、何を言っとるのだ助手よ! 誰の為に報告したと思っているのだ!」
「確かに、みんなに報告したいとは言ったが、あんな私まで厨二病を発症したかのような言い方があるかぁぁ!
なんでアンタは「普通」に伝える事が出来ないのよ!
見なさいよ、みんな呆れた返った顔してるじゃない!!」
「くっくっくっ・・・ 「普通」・・・だと? それが、この狂気のマッドサイエンティスト 鳳凰院 凶真にとって
 もっとも縁遠い言葉である事が、まだ理解出来ていないとは、それでよく俺の助手が勤まるな! クリスティーナよ!!」(ずびしぃ!!)
「私は、助手でもクリスティーナでも無いと言っとろうが! それに普通が嫌なら、折角、誕生日に報告するんだから
 もっとロマンティックな演出したってよかったんじゃない?」
「はっ! ロマンティックだと? これだからスイーツ(笑)はw」
そう言って大袈裟に肩を大きく竦めた瞬間、背中に冷たいモノが走る
「・・・アンタ・・・いっぺんマジで脳に電極刺してみるか?」
ゆらりとコチラに歩み出す紅莉栖から、どす黒い何かが立ち上っている様に見えるのは、果たして気のせいだろうか・・・

そんな己が生命の危機を感じ、心の中と恐怖と格闘している最中、ダルが能天気に口を開いた
「オカリンも牧瀬氏も、パーティーの最後の〆に夫婦漫才とか、斬新すぐるだろ」
「「まだ結婚しとらんわ!!」」
ダルに向かって、俺と紅莉栖の声が見事にハモる。
「ニャニャッ! 「まだ」って事はする気はあるんだニャン?」
「な゛ぁ!」「ええっ!!」
フェイリスのツッコミに、紅莉栖から発せられてた黒いオーラは一瞬で霧散し、今度は熱で陽炎が起きるんじゃなんか?
と思えるほど、全身を真っ赤に染めている。
なんとか、気持ちを立て直そうと、フェイリスを指差し「フェ・フェイリスよ! 突然何を・・・」
と言いかけた所で、カシュンッ 携帯カメラのシャッター音が響く
「指~圧~師よ~、こんな時に一体、何を撮っているのだ!!」
「・・・二人が・・・凄く・・・幸せそう・・・だったから・・・つい。 ・・・式には・・・是非・・・呼んで・・・ね。」
「んなぁ!!」萌郁の言葉に頭が真っ白になる。 紅莉栖に至っては全身を染め上げる色が、赤から更にどす黒くなった様に見えた

そんな俺たちの心境をまったく察せずに、まゆりがトドメの爆弾を放り込んできた
「あのねあのね、まゆしぃはねぇ、早くオカリンと紅莉栖ちゃんの赤ちゃんを見てみたいのです。 
 二人の赤ちゃんならきっと凄く可愛いよぉ ねぇ、るかくんもそう思うでしょ?」
俺の重大報告から魂が抜けた様な顔をしていたるか子が、まゆりの言葉にビクンッと反応し
「え? あっ・・・ うん・・・ そう・・・だね・・・」なんとかそれだけの言葉を紡ぎ出す
「あ~、そうしたら、まゆしぃが赤ちゃんの為に一杯お洋服作っちゃうよ~」
「まゆりよ、一体何を言っとるのだ!  貴様らも人の話をちゃんと聞けぇぇぇい!! 付き合ってる事を報告だけで、なんでそこまで話が飛躍するのだ!!」

「え~、だってぇ・・・ オカリンと紅莉栖ちゃんって夏の終わり頃から付き合ってるんじゃないの?」
「ちょっ! なんで、まゆりがその事知ってるの? まさか岡部から?」
紅莉栖の疑問に、ダルが答える
「無いわぁ、ラボでもあれだけラブラブ・ファイアー!!しといて、バレて無い筈!っは無いわぁ
だから、やっと報告されても「今更」?としか反応出来んお」
「何ぃぃぃ、そんな筈は無いだろ? 俺と助手はそれは細心の注意を払ってだな・・・」
紅莉栖が同意する様に「うんうん」と頷く

「でもぉ・・・ラボの中でも、気が付いたら指を絡めあったりしてましたよね? ・・・僕、それを見て、「もしかして・・・」とは思ってました・・・」
「え゛・・・」「あ・・・あ・・・」 るか子のその言葉は儚げで、どこかに憂いを秘めた、普段であれば妙な気分にさせられる程の破壊力を秘めていたが
今は、そんな事に気づく余裕は無い、そこへ追い打ちをかける様に、まゆりが続ける
「ご飯食べる時も、オカリンの分を紅莉栖ちゃんが取り分けしてるよねぇ。 まゆしぃがコス作りで忙しいから紅莉栖ちゃんが用意してあげる
 っていってくれたんだけど、コス作りが終わっても、ずっと紅莉栖ちゃんが用意してるんだよね」
「フェイリスも秋葉原の街中で手を繋いで一緒に歩いてる所を何度も目撃しちゃったニャw」
ラボメンの数々の証言により、俺と紅莉栖の中の「細心の注意を払っていた」と言う認識が粉々に砕け散り
二人揃ってorzと言う様な有様になっていた
「おかしい・・・、こんな筈では・・・ はっ! これはひょっとして機関の俺に対する精神攻撃なのでは?!  ならば負ける訳にはいかん!!」
そう無理矢理、己を奮い立たせようとした矢先に携帯へメールが届く・・・ 指圧師の方をみる・・・ 嫌な予感しかしない・・・

恐る恐るメールを確認「実は、私も見ちゃったんだ☆」、メールに添付されたファイルを開くと・・・
「ぬおおおおおお!!」 そこには紅莉栖と腕を組んで街中を歩いている画像だった、10人が見れば10人共デート中の写真だと思うだろう
「こ・こ・こ・こ・・・・・」 指圧師に、そんな言葉にならない言葉をかけながら画像を映し出す携帯画面を指差す
(ティロリ~ン)「仕事でショッピング街へ行った時に偶然見かけて 思わず撮っちゃったw てへっ☆」
「な・な・な・な・・・・・」
(ティロリ~ン)「うん、ほらっ付き合ってるの隠してるみたいだったからさぁ 一応空気を読んで、みんなに配るの我慢してたんだよ(^^ゞ
         でも、付き合ってる事バラしちゃったんだから、配布解禁しちゃっていいよね(〃∇〃)」
「良い訳あるかぁぁぁぁ!! 消せ、今すぐ消去しろ!!」
(ティロリ~ン)「ええっ せっかく良く撮れてるのにぃ(´;ω;`)」
「良く撮れていようが、悪く撮れていようが関係ない! こんな恥ずかしい画像をバラ巻かれてたまるか。
 助手よ、お前もそう思うだろう?・・・って、お前は何をしているのだ~!」
同意を求めた相手は、携帯と俺の間に頭を割りこませ、指圧師から送られてきた画像に見入っている
「え? あっ う~ん・・・ わ・私は別に・・・ それ程イヤ・・・じゃないかなぁ・・・とか」
顔を逸らせたまま、モジモジとそう呟く
「な・何っ? ちょっと待て助手よ・・・」 紅莉栖に真意を問い質そうとした次の瞬間に
(ティロリ~ン)「では、お許しが出たと言う事で( ̄∀ ̄*)」
「ちょっ・ちょっと待つのだ指圧師よ!!」 そう言い終わらない内に、ラボメン達の携帯のメール着信音が響きわたる

「リア充爆発しろ!!」
「わわっ、オカリンも紅莉栖ちゃん楽しそうな顔してるねぇ」
「牧瀬さん・・・ 羨ましいなぁ・・・(ボソボソ・・・)」
「ニャニャッ! 凶真ってばフェイリスには、こんな顔してくれた事ないニャ。 なんか悔しいのニャ~」
向こうでは配布された画像を肴にラボメンがキャイキャイやっている

(なんでこうなった・・・orz)
「お・岡部が悪いんだからな・・・ 二人っきりの写真、撮らせてくれないから・・・」
顔を上げると、紅莉栖が少し拗ねた様な口調で呟いた
「消すなんて勿体無い事出来ない・・・」
ふぅっと軽いため息を吐きながら、やれやれと言う感じで立ち上がると、紅莉栖の頭をポンポンと軽く叩く
「まったく、そんなんだからスイーツ(笑)と言われるのだ」「う゛・・・・・ス・スイーツ(笑)で悪かったな」
いつもなら「スイーツ(笑)」等といったら凄い剣幕で詰め寄られるモンだが、今は余程画像が大事なのか
携帯を両手で胸に抱きかかえて、削除完全拒否の構えを取っている
「今更キサマが持ってる一枚を消した所で意味が無かろう、この鳳凰院 凶真 無駄な事に労力を使う程愚かでは無い」
その瞬間、紅莉栖がホッと安堵する空気に包まれる
「それから、今度助手だけが持てる写真を撮らせてやる」
「え? それってどういう・・・」 
紅莉栖は俺の言葉に相当驚いたのか、いまいち理解し切れないまま聞き直してきた
「だぁかぁらっ! ラボメン全員が持っている様な写真じゃ無く、助手だけに所持を許された写真を撮らせてやると言ったのだ!」
「!! あの・・・それって・・・私と一緒・・・に?」
「助手が、そう望むなら一緒に写ってやる事もやぶさかではない・・・ だ・だが勘違いするな! それはあくまでも助手を良い気分にさせて
 研究に集中出来る様にする為の緊急的措置なんだからな。 そう、全てはこの鳳凰院 凶真とラボの為なのだ! そこを勘違いするんじゃないぞ」(ずびしっ!)
俺の捲し立てる様な言葉に一瞬呆気にとられると、次の瞬間にプッと吹き出し
「うん、それでもいい。 ありがとう 岡部・・・」 「うむっ、判ればいいのだ」
紅莉栖の心底嬉しそうな表情にドキマギしながら、なんとかそれだけ言い放った

カシュンッ!
シャッター音にハッとして振り返ると、ラボメンの面々がニヤニヤとコチラを見ていではないか!
「・・・また・・・いい画が撮れた・・・」
「いい雰囲気だったニャ 凶真とクーニャン ニャフフフフ」
「みんなの前で、堂々とギャルゲシチュをやってみせる! そんなオカリンに痺れる! 憧れるぅぅ!! このスイーツ(笑) 乙!」
「んが・・・・」
まさか、この俺が二人だけの特殊フィールドを作り出すと言うスイーツ(笑)みたいな事をやってしまうとは・・・orz

それな俺とクリスの様子を、いつもの笑顔で見ていたまゆりが、
「オカリン、オカリン。 まゆしぃはね、紅莉栖ちゃんとお付き合いしている事を、ちゃんと教えてくれて嬉しかったのです」
「まゆり?」
「ただね、まゆしぃは、出来ればもっと早く教えて欲しかったかなぁ そうしたら、オカリンの誕生日会のついでじゃなくて
 オカリンとクリスちゃん、お付き合いおめでとうパーティーが開けたのになって思ったの
 オカリンと紅莉栖ちゃんが付き合ってるのかな?って気付いた時に、何時教えてくれるかな? 明日かな? 明後日かな?ってずっと思ってたんだよ
 中々教えてくれないから、まゆしぃは、ちょっぴり寂しかったのです」
そういって、まゆりが少し寂しそうな表情を浮かべると、紅莉栖が慌てて駆け寄って弁明を始めた
「あ・あの、ごめんねまゆり。 私はもっと早く伝えようとしてたんだけど、あの馬鹿が「そういう事は、俺に任せろ!」って言うから任せてみたら
 いざとなったら、「今日は日が悪いだの」「今日は右手の封印が・・・」とか先送りし続けちゃって、そうしてる内に夏休みも終わっちゃっうし
 ラボメンみんな集まる機会も減っちゃっうし、そんなこんなで、あの馬鹿の誕生日と言うチャンスで、やっと報告出来たって有り様なのよ」
「オカリン、ヘタレ過ぎだろ」 
「やかましぃ~わ!!」 
ダルの的確なツッコミに、そう返すのが精いっぱいだ

「あはははは、オカリンは恥ずかしがり屋さんだからね。 でもそれがオカリンだから・・・ 紅莉栖ちゃん、そんなオカリンをよろしくお願いします」
そういってペコッと頭を下げるまゆりを見て、胸にざわめくモノが現れるが、それを押し潰す様にまゆりに言い放つ
「ヌァアハッハッハッ! まゆりよ、人質の分際で、この鳳凰院 凶真の保護者顔をするとは大それた事をするもんだなぁ」
「うん。 まゆしぃは紅莉栖ちゃんのお陰で人質から解放されちゃったからね。 だから、もうオカリンのお世話をしなくていいんだぁ
 だってそれは、紅莉栖ちゃんがする事だから。 ね? 紅莉栖ちゃん」
そう言いながら紅莉栖に向けるいつもの微笑みに微かな寂しさが混ざってる様に見えた。
紅莉栖も同じ事を感じ取ったのかもしれない、まゆりの目を見て力強く頷いて見せた
「ありがとう、紅莉栖ちゃん」 再び紅莉栖に向けられた微笑みから、先ほど感じた寂しさは消えてる様に思えた

「でも、僕も・・・ちゃんと・・・ううっ・・・岡部さんから・・・ふぐっ・・・聞けて・・・ずずっ・・・良かったですぅ・・・うえぇぇぇぇん」
「って、るか子よ、なぜそこで泣くのだ!」 相変わらずルカ子の泣き顔には妙な気分にさせられる
「ぐすっ・・・ ご・ごめんなさい・・・ えっく・・・ なんか・・・感動しちゃって・・・ ふぐっ・・・牧瀬さん・・・ずずっ・・ぼぐの゛ぶん゛も・
 おがべざんを、じあ゛わぜにしてあ゛げでくだざい!」
「ん?」
「え?」
「ふぇ?」
「お?」
「ニャ?」
「・・・」 
最後の方は、涙声で良く聞き取れなかったのだが、それが余程恥ずかしかったのか、るか子は、その後ずっと顔を真っ赤にしたまま
「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りっぱなしだ
「るか子よ・・・ いつまでも些細な失敗でめそめそするのはよせ」
「でも・・・でも・・・ぐすっ・・・僕・・・」
「まったく、るか子よ、お前はまだまだ精神修行が足りんな! それでは妖刀 五月雨を覚醒させるなど夢のまた夢!
これからは、より一層厳しい修行が待っているからな、覚悟をしておけ」
「え? まだ・・・僕、修行続けても・・・いいんです・・・か?」
「当たり前だ! この鳳凰院 凶真 弟子を途中で放り出すなどと言う無責任な事などせぬわ!」
「は・はい! よろしくお願いします 岡部さ・・・じゃない 凶真さん!!」
そういう、るか子の顔にはいつもの笑顔が戻っていた やはり、まゆりとるか子には、いつも笑っていて貰いたいものだな

それから、みんなに散々弄られた後、ほうほうの体でソファーまで戻り、カラカラに乾いた喉に勢いよくドクペを流し込んだ
そんな俺の横にトスッと紅莉栖が腰を下ろし 「お疲れ様」と労いの言葉をかけられる
「ああっ、まったくだ。 この鳳凰院 凶真ともあろう者が、ここまでの苦戦を強いられるとはな」
「またそれかよ。」呆れた様に呟き「それじゃ報告しない方がよかった?}」といたずらっぽく聞いてきた
「・・・・いや、まゆりの言ってた通り、もっと早く言うべきだったな」「へぇ?、ちゃんと反省はしてるんだ?」
「そうすれば、ラボメンにも公認って事で、クリスティーナも安心出来たろ?」 俺の反撃に紅莉栖は一瞬にして顔を朱に染める
「いや・・・私は・・・別に・・・お・岡部の事信じてるから・・・ みんなの公認じゃなくても・・・安心してたわよ・・・ブツブツ」
「声が小さ過ぎて何を言っておるのか、よく聞き取れんのだが?」 俺の意地悪な物言いに、「なんでもないわよ!」と
顔をプイッと背けるが、声に、それほど怒ってる感じはしなかった、相変わらずのツンデレだなw

そう思いながら、ドクペをあおっていると
「そういえば、クーニャンは凶真の、何処を好きになったのかニャ?」「ごふっ!」
いつの間にか、テーブルの正面に陣取ったフェイリスの突然の質問に、口に含んでいたドクペを吹き出した
「ニ゛ャニ゛ャ! 凶ぉ~真ぁ~ ばっちいニャン・・・」 噴出したドクペをヒラリとかわして俺に非難の声を上げる
「げほっ・・・ごほっ、ごほっ・・・貴様が、突然変な事を聞くからだ! フェイリス・ニャンニャン!!」
「え~? だって気になるニャン 喧嘩ばかりしてたクーニャンが、どうして凶真と付き合おうと思ったのかw」
隣で耳まで赤くしてウーパーのぬいぐるみを抱きしめている紅莉栖を見るフェイリスの顔は、いたずら猫のそれである
「あ~、まゆしぃもそれ聞きたい~」「ぼ・僕も・・・」
そこに、まゆりとるか子も加わる事となる

(これだからスイーツ(笑)と言うのは・・・) 軽い目眩を覚えながら、気を取り直す為に残りのドクペを一気に煽る
「え・・・いや・・・あの・・・ わ・私が惚れたとか・・・じゃなくて そのぉ・・・お・岡部が、どうしてもって言うから・・・
 それじゃ、仕方ないなぁ・・・って感じで・・・」 「ぶっ!!」
ぬいぐるみの半分顔を埋めながら、しどろもどろに応える紅莉栖の言葉を聞いて、再びドクペを吹き出す事になった
「きゃっ!」 「もぉ、オカリン、食べ物を粗末にしちゃダメなんだよぉ」」 
「ゴホッ・・・げはっ・・・ちょ・ちょっと待てクリスティーナよ! いくらなんでも それは・・・」
「ないだろう」と続けようとした時に、「ふ~ん、そうなんだぁ」鼻にかかった、何かを含む様なフェリイリスの声がそれを遮った
「って事は、フェイリスにも、まだチャンスはあるのかニャァ~」 そういってテーブルから身を乗り出し、俺の方へゆっくりと手を伸ばす
「フェ・フェイリス・・・お前、一体何を・・・」 そこまで言ってフェイリスの瞳から視線を外せなくなった・・・
そして、いつもの小悪魔的な笑みに、妖艶さを加えた様ないつもとまったく違う雰囲気のフェイリスの手が少しずつ近付いてくる。
その手が俺の頬に触れようかと言う、その瞬間、左腕が凄い力で引き寄せられ、次の瞬間には紅莉栖の腕の中に抱き留められていた
「ダメ! そんなの絶対にダメなんだから!」 
俺を抱きしめながら思いの外強い口調で言い放つ紅莉栖を、フェイリスやまゆりがキョトンとした表情で見ていたが
フェイリスがいつもの小悪魔フェイスを浮かべるのと同時に、「カシュン」と言うシャッターの音が響く

「どうかなニャ、モエニャン? いい写真が撮れたかニャ?」
「・・・バッチリ」
フェイリスの問いかけに、無表情で携帯を持ったまま、ビシッと親指を立てる萌郁、それはシュール過ぎるだろ・・・
「え? なになに? 一体何が・・・って うわぁ!!」 
どうやら、紅莉栖自身、自分がどんな行動をとっていたのか、この瞬間まで気付いて無かったらしい、真っ赤になったまま
慌てた様子で腕を開き、俺を開放する
「いやぁ、ここまで上手くハマるとは思わなかったニャ 大成功ニャw」
萌郁の撮った画像を確認しながら、フェイリスは満足そうに頷いている
「あ・あの・・・ フェイリスさん・・・」 紅莉栖が躊躇いがちにフェイリスへ声をかける
「なんニャ? クーニャン?」 「あの・・・さっきのアレって、お芝居・・・なのよね?」
そう聞かれた瞬間、フェイリスの顔に、いつものイタズラっぽい笑みが浮かぶ
「さぁ、どうかニャ~? ご想像にお任せするニャン♪」
「え? ちょ・ちょっとぉ! それって、どういう・・・」 更に追い縋ろうとする紅莉栖を横目に
「みんな~ 新しい画像が撮れたニャン♪」 とまゆりやるか子の所へササッと移動してしまった
「私・・・一生あの娘に勝てない気がする・・・orz」
(泣くな紅莉栖よ・・・ あのフェイリス・ニャンニャンに勝てるヤツなど、どこにも居ないのだ・・・)

心の中で紅莉栖を慰めていると、携帯にメールが届く
(ティロリ~ン)「ゴメンねぇ フェイリスさんに頼まれちゃって 断れなかったのぉ(^^;」
メールを確認しながらため息をつく、正直、ここまで翻弄されてしまうと画像の1つや2つくらい、どうでもいい様に思えてきていた
「フェイリスは、あれはあれで押しが強いからな。でだ、それはそれとして、近くにいる時は、ちゃんと口で伝えろと」
(ティロリ~ン)「でも、岡部くん愛されちゃってるね(*ノ∇)ゝ 牧瀬さんばっかりズルイなぁ たまには
         お姉さんともデートしてね お誘い待ってるから(ハート)」
「何度も言っている・・・では・・・ な・なにぃぃぃぃぃ!!!」
「・・・口で・・・言う?」
「いや、その必要は無い! やはり、当人が嫌がってる事を強要するのは良くないからなぁ あはははは」
「ちょっと待て、岡部。 なんか怪しいんだけど、一体どんなメール貰ったのよ」
いつの間にか背後に回った紅莉栖が、俺の携帯を覗き込もうとしていた
「いや、なんでもない! それより 人のメールを読もうとするのはエチケット違反ではないか? 助手よ」
携帯を素早く折り畳み、紅莉栖の方へ向き直ると携帯を背後へ隠す。
「何でも無いなら見せられるでしょ。 それに今まで何度も桐生さんのメール見せてくれてたじゃない。」
そういいながら、ジリッジリッと詰め寄る紅莉栖、同じ様に後ずさる俺・・・
「よし、こうしよう。 メールの内容を見ても怒らないと言うのなら見せてやってもいいぞ」
「内容も見ない内から、そんな約束は出来ない。 それとも見たら私が怒る内容な訳?」
「いや、そんな事は無いぞ・・・」
「ねぇ、岡部、ここは理論的に考えてみましょうよ。 素直に見せれば「なんだこんな内容だったのかw プッw」ってな感じで
 怒らない可能性があるけど、見せなかったら確実に私を怒らせる事になる、だとしたら見せた方がいいんじゃない?」
紅莉栖の顔には優しそうな笑みが浮かんでいるが、あの表情の時はヤバイと言う事を経験上知っている
「助手よ、その手には乗らんぞ。 その理論には「見せた場合、見せなかった時より激しく怒らせる」と言う可能性が
 すっぽり抜け落ちているではないか!」
「つまり、それって私をそれだけ怒らせる何かが、そのメールに書かれていると仮定されるんだけど?」
表情は変わっていない筈なのに、感じるプレッシャーが更に強くなった様に感じる・・・
「か・仮定はあくまでも仮定でしかないではないか」
「そうね、その通りだと思うわ。 でもそれは岡部が携帯を見せれば簡単に証明出来るじゃない。 だから、携帯を渡しなさい」 
そう言いながらニッコリとほほ笑むが、その瞬間に体中にドッと冷や汗が流れ出た 
(ティロリ~ン)「いや~、なんかゴメンねぇ、私のせいで(^^ゞ でも、散々幸せな所見せ付けられたんだし
         これくらいのイタズラ許されちゃうよね( ̄∀ ̄*)」
「許されちゃうよね、ではない! 指圧師よ!! 誰のせいでこうなってると思っているのだ!」
そう、イタズラを仕掛けてきたのは萌郁であり、理屈で言えば萌郁に怒りの矛先が向かうべきなのだ
だが断言していい、絶対にそうはならない。 紅莉栖の怒りの矛先は、確実にこの鳳凰院凶真へと向く
理不尽極まりない話ではないか! これも運命石の選択だと言うのか!!
「ほほう・・・、この期に及んでもま~だ楽しくメール交換ですか・・・ さすが狂気のマッドサイエンティスト
 鳳凰院凶真さんですね」 そう明るく言い放つ紅莉栖の目が更に細くなっていく・・・
「ちょっと待て、これの何処が楽しく見えると言うのだ!!」
「そんな事知るか! こら! 逃げるな岡部! メールを見せろと言っとろうが!!」
「だが断る!」
「こぉのぉぉぉ! なら実力行使に移るまでよ 待ちなさい岡部!!」 

その後、紅莉栖と壮絶な鬼ごっこを繰り広げる羽目になるわ、ラボメンからは盛大に笑われるわで
昨日程、このマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の名が地に落ちた日も無かった・・・
だがまぁ・・・、悪い気はしなかったかな、あれはあれで、あいつ等なりの祝福の仕方だったんだろう
そんな事を考えていたら、胸の上で「うう~んっ・・・」と紅莉栖がもぞもぞと動き出したので
そちらを目をやると、眠りから覚めて、ゆっくりと瞼を開ける紅莉栖と目が合った
「ん・・・んあ・・・岡・・・部? おはよう、岡部」 
まだ少し寝惚けたままニッコリと頬笑む紅莉栖に俺も朝の挨拶を返す
「ああっ、おはよう、クリスティーナ」
その瞬間、紅莉栖の両頬がプクッと膨らむ
「こういう時くらい、ちゃんと名前で呼びなさいよ・・・ まったくアンタってば・・・あっ!」
非難めいた声で俺の顔を覗き込んでいた紅莉栖の顔が、ポッと赤くなった
「あの・・・岡部・・・ そのぉ・・・ごめんなさい・・・」
(あ~、やっぱり派手に付いてるみたいだな)
何の事かと言うと、俺自身まだ直接確認はしていないのだが、昨夜、首筋に痕(キスマーク)を付けられたのだ

01 → 02

  • 最終更新:2011-07-04 08:46:37

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