重奏狂騒のデイドリーミング;catastrophe 05 2

「紅莉栖が、ここに来いと言ったと……?」
「そう。タイムリープを敢行する前に、キミを引き留めろ――そう言われた」
 鈴羽は、フェイリスたちがいる方向から顔を背けながら言った。
「なぜだ?なぜ危険を冒してまで、俺を引き留めに来る必要がある!?そのまま逃げていれば、SERNに捕まる可能性だって無かったはずだろう」
「さあね。あたしは指示に従っただけだし」
「なんだよ、それは……」
「それと、紅莉栖おばさんからの伝言。『タイムリープをしても漆原るかは救えない』ってさ。『タイムリープしても天王寺裕吾は救えない』とも言ってた」
「……」
「だから、キミはタイムリープで彼らを救おうとするのは諦めた方がいい」

 鈴羽の言葉には感情が抜け落ちている。ただ紅莉栖に伝えられた事を俺に向かって話しているだけ。
 そして俺も理解に至る。鈴羽が――というか未来の紅莉栖が言うのだから、今の言葉は正しいのだ。
 今から連綿と連なる時間の果てに存在する、未来の紅莉栖が断言するのだから、間違っているはずがない――

「……それじゃ、やっぱり俺は、この世界では二人を助けられないのか」
 ルカ子やミスターブラウンを救うために、タイムリープによって足掻くことも、その過程すらも未来から完璧に否定されてしまった。なすべき事もかなわず、結局、誰一人救えないままに、この世界で俺は15年後に朽ち果てるのか。
 奥歯が砕けるかと思うほどに、きつく歯ぎしりする。
「……岡部くん」
「大丈夫だ、この程度の事は、覚悟はしていた」

 この世界線に来た時から、覚悟はしていたんだ。15年後に死ぬ事だって、最初から受け入れていた。ただ、それでも溢れる無力感を止めることは出来ない。

「ルカ子……ミスターブラウン……」
 俺がこの世界線に来たことで、本来ならば死ぬはずではなかった二人の運命をねじ曲げてしまった。
「これが、俺の罪か。この先、死ぬまで背負っていく」

 彼らを救う術はなく、俺は後悔したまま、再びラボメンたちに会うことも出来ず、15年後に死ぬ。

「……私が、いるわ。岡部……あなたは、ひとりじゃない」
「ありがとう、萌郁。だけど俺はきっと、お前の運命も歪めてしまった……全て、俺の責任だ」
「それは私が望んだこと……だから、後悔していないわ」
 守るべきラボメンに逆に慰められ、俺は唇を痛いほどに噛みしめる。口の中に血の味が滲む。
 
「――でもニャ、スズニャンはまだ何か隠してるニャ。それをフェイリスは聞きたいのニャ」
 それまで黙っていたフェイリスが、鈴羽に向かって言った。
 フェイリスは、開発室の入り口に立つ鈴羽を睨んでいる。一方の鈴羽は、ラボに入ってきたときから、フェイリスとは一切視線を合わせようとしていなかった。
「ふーん。そんなことまでわかるんだ。さっきから意識して視線を合わせてなかったのに。フェイリス、あんた本物のバケモノなんだね」
「バケモノとは失礼だニャ。未来人の方がよっぽど希少価値があると思うけどニャ?」
「……ふ、紅莉栖おばさんが、あたしに情報を限定的にしか教えてくれなかった理由が、ようやくわかったよ。紅莉栖おばさんも父さんも、あんたがバケモノだってことを知ってたんだ。だから、情報を読まれないようにあえて知らせなかったんだね」

 だが、それは正しい選択だったのだろうか。結果的に、フェイリスによって鈴羽やダルのハッキング計画は筒抜けになってしまった。鈴羽が予めフェイリスの存在を知っていれば、もっと他にもやりようがあったのではないか?

「凶真はそう思うかもしれないけど、きっと未来のクーニャンの選択は、最善だったと思うニャ」
「……なぜそう思うんだ、フェイリス」
「スズニャンが最初からフェイリスを敵と認識していれば、フェイリスは会った瞬間にわかってしまうからニャ。そうしたら、ラボの命運は今よりもっと早くに尽きていたと思うのニャ」
「そういうことだろうね。だから、あたしには不完全な情報しか与えられなかったってわけ。それでも、なんとかなると思ってたけど……甘くはなかったってとこかな」
「で、スズニャンがこの状況で隠し事をしてるのは、きっとフェイリスに聞かれたら都合が悪いことなのニャ。きっとそうニャ。ちゃんと全部洗いざらいゲロするニャ」
「わかってるじゃない。まあね、ぶっちゃけるとさ、これからが本題」
 鈴羽は俺に向き直り、静かに言った。

「岡部倫太郎、世界の全てを救う方法――それを、あたしが知っているとしたら、どうする?信じる?」
「信じる」
「ニャニャ!即答ニャ!?」
「……聞かれるまでもないさ。俺は、今の鈴羽の言葉を信じる」

 迷う必要なんてない。だって、鈴羽は紅莉栖が送り込んできたんだぞ?
 あいつが、勝算のない賭けなんてするわけがない。だから、絶対に裏があるはずなんだ。

「キミが考えていたような、タイムリープによる過程の改変では、世界線の収束を歪めることはできないよ。だから、あたしが前に言ったことを実行してもらう。――未来の改変。つまり、世界線の改変さ。キミは元来の居場所であるα世界線へ帰還するんだ」


 結局、行き着く結論はそこしかないんだ。
 タイムリープで二人を救えないなら、世界線ごと救済するしかない。
 実に単純明快で、否定のしようがない真実だった。ただ問題は――どうやれば世界を元に戻せるか、という唯一にして最大の命題が、解き明かされていないことだ。
 
「ダメニャ!!それは許さないニャ!!」
 加えて、世界線を変更することに反対のフェイリスは、当然ながら実力行使で阻止しようとするだろう。
「悪いけどフェイリス、これはもう決定事項なんだよね。25年……いや、きっとそれ以上の歳月を費やして計画された、失楽園からの脱出計画。あたしのミッションも、今ここで完了する。これが、世界線の収束に抗い続けた者たちの執念の結晶――」

『作戦名は、『未来を司る女神』(オペレーション・スクルド)――!!』






 約三時間前、富士樹海ポイントXXA807x。タイムマシンの中で、あたしは最後の指令を聞いた。
『――作戦名と共に、凶真に伝えなさい。8月18日夕刻に届いたメールに添付されたムービーファイル。そこに、全ての答えがあると』
 メッセージの最後は、そう結ばれていた。

 2010年8月21日午前0時。今、岡部倫太郎の携帯の中には、全ての解答がある。
 今ならわかる。あたしは、その一言を伝えるために、2010年にやってきたのだ!
 全てを岡部倫太郎に伝えたその時に、阿万音鈴羽の長い長い任務期間は、ようやく終わりを告げる。



 作戦名を告げた阿万音鈴羽の心境は――実に晴れやかだった。
 
 2025年の鳳凰院凶真が口にした作戦名は、ここ2010年の8月21日に結実した。
 これがシュタインズ・ゲートの選択。あのいけ好かない無精ひげの自称マッドサイエンティストは、時間という絶対の檻を攻略し、とうとう世界を救うことに成功する。あたしが想像していた以上の、とんでもない深慮遠謀ってやつを見せて貰った。
 ふん、ちょっとは見直してやってもいいかもね。鳳凰院凶真……あんた、結構カッコイイよ。

 ああ、でも、キミはあたしより歳が上すぎるし、なんかライバルも多すぎだし。今更あたしが割り込む余地なんて、無さそうだよね。
 世界線が変わった後、あたしは、いったいキミとどういう関係になるんだろう。……それを知ることが出来ないのは、ちょっと残念だ。
 ま、そんなことはどうでもいいか。
 さあ、作戦の仕上げだ。心して告げよう、阿万音鈴羽。未来は、きっとあたしの想像以上に、楽しいものになるはず――!

「全ての答えは岡部倫太郎の携帯の中にある。8月18日夕刻に、それは届いているよ」




「俺の、携帯の中、だと……?」
 携帯を取り出し、受信メールの一覧を遡る。
 
 俺は目的のものを発見した。



Time: 08/18 17:45
From: sg-epk@kof93.x29.jp
Sub : no title
Obj : sgepk.3g2
--------------------------------- 


「これか……!」
 見知らぬアドレスから送信された空メール。添付されたムービーファイルは、たしか白黒のノイズばかりで内容は確認できなかった。
「ムービーファイルが添付されているでしょ。2010年8月21日になった今なら、再生できるはずだよ」
 鈴羽に促され、添付されたムービーファイルを再生する。
「……これは……」
 俺の横で一緒に携帯を覗き込んでいた萌郁が怪訝そうな声を上げる。
「……どこかの、部屋……かしら?」

 映し出されたのは、かつて見た白黒のノイズではなかった。

 どこかの研究施設のような場所で、暗がりの中に薄ぼんやりと照らし出された人物が見える。
 白衣を着た人物の後ろ姿。映像が荒すぎてよく見えない――髪は短いが、なんとなく、女性のような気がした。



『……久しぶり、と言ったら語弊があるかしらね。岡部倫太郎……いや、鳳凰院凶真』



 携帯のスピーカーから流れた第一声。
 それは聞き覚えのある、挑みかかるような、懐かしい響き。

『現在時刻は――2035年、12月14日。あなたが生きていれば44歳の誕生日、ということになるわね。2010年8月21日、私たちの別れは、あなたからすれば、まだほんの数時間前の出来事だけれど……私にとっては、25年も前の遠い昔の記憶になってしまった』

『私が誰か――なんてのは言わなくても、わかるわよね。わからないとか抜かしたら、脳味噌ひん剥いて海馬に電極ブッさしてやるから』

 聞き覚えのあるフレーズに、胸が締め付けられる。こんな台詞を吐く人間を、俺は一人しか知らない。
 
「……これ、もしかして……?」
「ああ……これは紅莉栖だ。間違いない――我がラボきっての天才、ラボメンナンバー004、牧瀬紅莉栖だ」
 
 25年の歳月を経て、反SERN地下組織、レジスタンスのリーダーとなった牧瀬紅莉栖。
 俺の知らない25年後の牧瀬紅莉栖が、携帯のディスプレイの中に立っていた。

『……たぶん状況がよく分かってないだろうから、結論から言うわ。あなたは2010年8月20日の夜、漆原さんと店長さんを救おうとしているけれど、それは不可能。あなたが今夜試みようとしている事は、全て徒労に終わる』

「……っ」

『二人の死は世界線によって収束する。あなたが予想している最悪のケースは、そのまま現実となる』

 紅莉栖から聞かされるまでもなく、それは覚悟していたこと。
 彼らの死が世界線の収束ならば、つまり俺が何度この世界でタイムリープを繰り返したところで、二人は絶対に救う事は出来ない。
 では、諦めてこのまま運命に流されるままに生き、緩慢に死を待つのか?そんな選択肢はありえない。だから、俺は紅莉栖の言うことに逆らってでも、タイムリープをして――
 
『でも、諦める必要は無い。彼ら二人を救うことは可能よ』

『もう今の時点で、あなたも薄々気付いているのでしょう?タイムリープマシンでは、世界は救えないと。同じダイバージェンス上でもがいたところで、世界にさしたる変化も与えられないということを。これまでの体験から、あたはもう理解しているはずよ』

『ゆえに結論はひとつ。二人を救いたいならば、世界線を変えるしかない。あなたは元いた世界線へ戻るしかないわ』

『私と橋田は、ずっと、その方法を探し続けてきた。そして、ようやくその方法を発見した』

『あなたが15年間――いや、33年間の生涯を通じて、見て、聞いたもの――海馬に蓄積された記憶データの全てを、私と橋田は受け取った。あなたの記憶データを元に、世界が変容した原因と、その復元方法を模索し、ようやく計画を完成させた。つい先日のことよ』

『だけど、私たちには、世界線を変化させることが出来ないの……いえ、これは正確な表現ではないわね。私たちは、世界線を変動させる権利を持っていない。その権利を持つのは、岡部倫太郎……あなただけ』

『観測者が世界線の変動を知覚できなければ、世界線を変動させる意味がない。私が2035年に世界線を変更しても、その結果を観測できる存在がいなければ、意味をなさない。岡部倫太郎が2025年に死んでしまった世界では、観測者が不在。だから2035年に私が世界線を変更しても、無意味』

『変動を知覚できて初めて、ダイバージェンスの変更は意味をなす。だから――あなた自身がやるのよ』

『2010年に生きている岡部倫太郎が、世界を元の姿へと戻す。漆原さんと店長さんを救い、そして――』

『これは岡部倫太郎が、過酷な現実へ立ち戻る契機ともなる。まゆりを救うために繰り返してきた長い長い漂流の、再開の合図』

『「作戦名・未来を司る女神」……作戦名をつけたのは、他でもない岡部倫太郎自身。2025年……あなたから見て15年後の岡部倫太郎が、自らの死の運命の果てに導き出した、世界を救う唯一の解』

『これから先の未来をかいつまんで話す。――あなたは2010年8月21日未明に、タイムリープを『した』。今、このメールがあなたに届いているという事実が、そのままあなたの苦闘の証』

『――あなたの努力は、報われなかった』

「……」

『あなたは、漆原さんと店長さんを救うために、おそらく三桁に届くであろう回数のタイムリープを敢行した。そして、その全ての繰り返しを経ても、彼ら二人を救う事は出来なかった』

『……椎名まゆりを救おうとしてα世界線で繰り返したのと同じ悲劇が、この世界線でも繰り返された。最終的に、あなたも認めざるを得なかった。世界線の収束をタイムリープで覆すことは不可能だ――と』

『世界線が収束することによる二人の死は不可避である。こう結論づけたあなたは、いよいよ世界線を元に戻す決意をする。――けど、それは現実的には非常に困難な作業だった。2010年の岡部倫太郎は、結局その方法を見つけることができなかった』

『加えて言うと、あなたは迷ってもいた。……この世界線で生まれ、暮らしてきた人たちの幸せを消去していいのかと。失われた対価には理由があって、代わりに幸せを享受している者がいた。その幸せを、世界線を奪って良いものかと、最後まで悩み苦しんだ』

『そして、あなたは最終判断を未来にいる仲間に委ねることになる。……ずるいよね。こんな判断を当事者本人に丸投げするなんて!生前、橋田は言っていたわ……「オカリンは、けっこうヘタレだから」って。私も全く同意見。肝心なところで勇気が足りないのよ。優しいのは美徳だけど、度が過ぎると欠点にしかならないわ。――肝に銘じておきなさい、優しさは人を傷つけることがあるということを』

『……でも、あなたの苦しみはわかる。あなたの33年間を、つぶさに見せてもらったから――今ならあなたの葛藤を多少なりとも理解できる。正直、かなりショックだったけど……というか、私が受けた衝撃なんて、きっと理解できないんでしょうね!もう一度あなたに会えたら、今度こそ本気で海馬に電極ぶっ刺す実験台にしてやりたい気分……もちろん、あなたは死んでしまっているから、そんなことは無理なんだけど』

『……でも、会いたい。あなたに、会いたい。たった数秒でもいいから、奇跡が起きないかなって、この25年間ずっと夢見ていた。奇跡なんて起きないって冷徹に断じる科学者としての私の影で、奇跡を願う私がいた――』

『未来を変えなさい、岡部倫太郎。それが、あなたに課された最後の責務。あなた以外には誰にも出来ない。あなたが引き起こしたものは、自身の手で元に戻しなさい。それが、私と橋田と、まゆりの出した結論よ』

『未来は確定している。その原因となった三通のメール――1993年の漆原るかの母親の所持するポケベルに届いた、3つのメッセージの全てを『無かったこと』にしなさい。それが、あなたがα世界線へと回帰するための唯一の方法』

『方法は、そこにいる鈴羽に託してあるわ――だけど、そのまま実行しても駄目』

『タイムリープで、2010年8月18日午後5時45分よりも前に跳びなさい。このメールが『観測されていない』時刻まで遡りなさい。できるならば、タイムリープマシン完成直後に跳躍して、そこからさらに48時間を遡ること』

『私の計算によれば、あなたはα世界線に比べて、余計に時間を進みすぎている。世界線を変動させる前に、出来る限りα世界線との誤差を狭めるのよ。でないとα世界線に戻った時に、あなたが置かれている状況が悪化していて、取り返しのつかない状況に陥る可能性があるから』

『その上で、もう一度、鈴羽に会って伝えなさい。『作戦名・過去を司る女神』(オペレーション・ウルド)を発動せよ、と。全ての段取りは、鈴羽が整えてくれるわ』

『――なんだか、まどろっこしい計画と思った?だけど、この計画の発案者は、15年後の岡部倫太郎よ。文句なら自分自身に言うことね』

『後は、あなたの胸一つで全てが決まる――英断を期待しているわ、鳳凰院凶真。私の期待を、裏切らないでよね』


 ディスプレイの中に映る影が振り返り、こちらを向く。
 粒子の粗い映像だが、その面影は紛れもなく紅莉栖だった。
 眼鏡をかけていて、ずいぶんと痩せてしまっていたが、その凛々しい立ち姿は、俺が憧れた、あの天才少女の姿そのものだった――
「紅莉栖……」

 25年という時間が、俺とディスプレイに映る姿の間を隔てている。
 つい数時間前に別れたばかりの紅莉栖が、今こうして、25年後の姿で俺に語りかけている――現実感に乏しい光景だった。
 映像の中の姿は小さくて表情まで判別できない。その顔は、泣いているのか、笑っているのか。
 この映像を録画したとき、お前は一体どんな気分だったんだ?なあ、紅莉栖――

『……業務連絡、終わり!だから本当は、これでお別れするはずだったんだけど――』

「……え?」
 まだ、何かあるのか。

『今更こんなことを言っても仕方ないとは思うけど、やっぱり言わせて貰うか……』

 コホン、とせき払いをして俺を正面から凝視する紅莉栖――
 いや、たぶんカメラに向かって話しているのだろうが、何となく妙に迫力があるというか。……嫌な予感がする。


『他の全てのラボメン女子を代弁して……岡部倫太郎の、大ばか野郎ぉおおおおおおおおーーー!!』

 携帯のスピーカーから大音量の怒声が垂れ流された!!その時間、おそらく10秒以上。

「なっ――なんだと――!?」
「……ま、牧瀬さん……?」
「ニャニャ!?クーニャン怒りの咆吼ニャ!」

 肺の全ての空気を吐きつくしたのか、俺を罵倒し終えた画面の中の紅莉栖は、はぁはぁと肩で荒い息をついていた。
 
『……まったく、なんでもかんでも自分だけで背負い込んで――勝手に一人で死んじゃってさ!その意図すら知らされずに、20年以上も、あんたの事を想いながら生きた女が最低でも二人いるってことを、ちゃんと考えたことあるの!?25年よ?25年!!女の25年は男の25年とは違うのよぉおおお!このバカ凶真の、アホ、タコ、こんちくしょぉおーーーーっ!!ふざけんなーーーっ!!』

 ディスプレイの中で、文字に出来ないほどの罵詈雑言を機関銃のごとく並べ立てる、天才科学者にして反SERNレジスタンスのカリスマリーダー牧瀬紅莉栖氏(43)。
 
「紅莉栖おばさんも、まゆりおばさんも、結局、すっと男っけなしで独身だったしなあ。そりゃ恨みは深いよねぇ」
 うんうんと頷きながら、冷静に解説する鈴羽。
「おい、それって俺のせいなのかよ……。自分が死んだ後の未来のことまで面倒見切れないぞ、いくらなんでも」
「はぁ~、やっぱり自覚ないよこの人。紅莉栖も椎名まゆりも救われないね、こりゃ……」
「ぐぬぬ」

 つーか、未来の出来事なんて、今の俺にわかるわけないだろーがぁっ!!八つ当たりすんなよ!!
 
「……私も、フェイリスさんも、牧瀬さんと同じ被害者の会に入れるかしら」
「きっと入会無料、審査なしで即オッケーだと思うニャ。間違い無いニャ!」
 ジト目で俺の事を睨むラボメン女子二人組。ええい、お前らさっきまでお互いにあんなに敵意むき出しだったくせに、急に意気投合するなよ!やめろー!そんな目で俺を見るなー!!
 俺は無実……とは言わないが、きっと未来でも精一杯頑張ったはずなんだぞ!そこんとこ認めてくれたっていいじゃんかよ。くうぅ、俺って本当に報われない一生を送ったんだなぁ。我ながら不憫すぎて泣けてくるぞ。


『……漆原さんも、フェイリスさんも、桐生さんも――まゆりも、みんなみんな、あんたが大好きだった。そのことごとくを不幸にした責任は、あんた自身が取りなさい!これは絶対命令よ!!』

『――ラボメンの皆が、笑って暮らせる世界を取り戻すんでしょ?その決意が本物なら、もう迷わないわよね?この馬鹿凶真!!』

『ここまでお膳立てしてやったんだから、あとは格好良く決めてよね。でないと、もうあんたの助手なんて辞めちゃうんだからね!!』

『……ううん、やっぱ今のはウソ。私はいつだって、あんたの助手。絶対に変わらない――たとえあなたが忘れても、私は忘れないわ』

『……α世界線の私が、たとえあなたと幼なじみでなくても……どんなに世界線が変わっても、私の気持ちは変わらない。いつだって、私はあなたの味方よ――それを忘れないで』

 不鮮明な映像の中で、紅莉栖が泣いているように見えた――
 ノイズの混じった小さなディスプレイでは涙なんて見えるはずがないのに。
 紅莉栖の声も、別に泣いてなんかいないのに――どうして、こんなにも胸が苦しいんだ。

『まずは漆原さんと店長さんを救って、それからまゆりを救いなさい。あなたなら出来るわ。いつだって、どんな世界線でも、あなたには私がついてる』

『前に進みなさい、鳳凰院凶真。これがシュタインズ・ゲートの選択よ』

『――健闘を祈るわ、お兄ちゃん……また、会おうね。世界で一番、大好き』

 唐突に音声が途切れ、携帯の画面がメール画面へ戻る。
 25年後からの時を越えたメッセージは、そこで終わっていた。


■ To Be Continued…

  • 最終更新:2019-03-04 17:11:25

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